きのう自殺した建築士の知人のこと

知り合いの一級建築士が、きのう自宅のマンションの非常階段からダイブして亡くなったと聞いた。
聞いたときに、本来伴うべき驚きや感傷が、自分の中で浮かんでこない。
そのことが、哀しい。

この話を聞くと、共通の知人は一瞬驚くが、なかば予期していたせいか諦めにも似た表情を浮かべる。
僕達の知っていた彼は、もう1年半前に死んでいたからだ。
あの頃、彼は裸で非常階段を駆け上って非常ベルを鳴らしたり、自宅の室内のインターホンを引きちぎって使えないようにしたり、自宅の床に五寸釘を何本も打ち込んだりして、周囲を困らせていた。
そして、大真面目に、「量子力学と特殊相対性理論の研究をしている」と言いながら、「宇宙からの電波が届かないようにインターホンをはずしている」と主張していたのだ。
当然のように彼は、病院行きとなった。

なぜそんなことになったのかは、今でもわからない。
ただ、そんなふうになる前の彼は、数年ぶりに羽振りがよく、たびたび海外旅行に行き、絶好調に見えたそうだ。
そしてその後、発症する直前に、姉歯一級建築士による耐震構造偽装事件が起こった。
彼は、姉歯と同じ構造計算の専門家だったのだ。
彼は、あの事件に何らかの形で関与していたのだろうか?

おそらくそうではないだろう。
ただ当時、彼だけでなく、構造計算の専門家は一様に、施主やゼネコンから終始「安くなる構造設計」への圧力を受け、無理解にさらされ、ほとんど脅しに近い強要を日常的に受けていたであろうことは、業界では広く噂されていた。
姉歯事件は、孤立した一人の一級建築士が欲にかられて引き起こした、特異な事件として幕引きされたが、そんなはずはない。施主やゼネコンがそのことに気づかないはずがない。気づいていて、わざと見逃していたのだ。

僕は最初に姉歯の偽装に気づいたゼネコンに話を聞いたことがある。
そのゼネコンも一度目に建てたときは気づかなかったが、二度目の発注が来たとき、別の構造計算事務所に見てもらって初めて、姉歯による偽装が発覚したのだ。
二度でわかる程度の手抜き設計なのに、何度も工事を受注していた木村建設や、何度も発注していたヒューザーが、偽装に気づかないはずはない。
姉歯はスケープゴートにされた。いや、おそらく納得ずくで、何かと引き換えにスケープゴートになったのだ。

そうなれなかった知人は、錯乱し、自死を選んだのかもしれない。
だが、今となってはその真相も、彼とともに永遠に眠りについてしまった。

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