近未来の予言~ジャック・アタリ『21世紀の歴史』~

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ジャック・アタリは『カニバリスムの秩序』(みすず書房)などにより、フランス現代思想の一翼を担うとともに、社会党政権時代のミッテラン大統領のブレーンであった、フランスを代表する知性の一人だ。その人が2006年に書いたUne brève histoire de l'avenir(未来小史)の邦訳。
読んでみて知ったが、この人は日本に対してはかなり厳しい意見の持主だ。しかし、著書の論理構成は、異なる未来予測を持つ人間も活用できる内容になっていて、そこから教訓を読み取ることもできる。
アタリはこれまでの資本主義の歴史を、その核となる「中心都市」の興亡によって描き出す。
「これまでにさまざまな形式の「中心都市」が誕生したが、いずれの都市も過剰な出費により衰退し、競争相手となった都市にその座を譲ってきた。一般的に、次の中心都市となる都市は、「中心都市」に攻撃を仕掛けた都市ではなく、この戦いの間に、これまでとは違った文化・成長原理をもった都市であり、これまでとは違ったクリエーター階級が、新たな自由・資金・エネルギー・情報源を持ち込んで、従来のサービスを新たな大量生産の製品に置き換えた都市である。」(63頁)
13世紀以来の「中心都市」とは、次の9つである。
ブルージュ、ヴェネチア、アントワープ、ジェノヴァ、アムステルダム、ロンドン、ボストン、ニューヨーク、ロスアンジェルス
最後のロスアンジェルスは、シリコン・ヴァレーやハリウッドも含むカリフォルニアを指している。
著者の言うように、「中心都市」は西漸を続け、大西洋を渡ってついに太平洋に到達した
「一九九〇年の時点ですでに太平洋貿易は大西洋貿易の半分にまで達していたが、ついに太平洋が世界第一の海となった。太平洋では国際貿易の半分が行われている。世界最大の港、上位一二港のうち九港は、アジアの太平洋に面した港である。空路の大半についても太平洋上空を通過する。」(125頁)
こうなると、次は太平洋を渡って、世界の「中心都市」が東京にやってきても良さそうに思えるのだが、ここに来るとアタリは非常に厳しい。本書の日本語版序文で、アタリは次のように言う。
「日本は二〇世紀後半に世界の中心勢力となるチャンスがあった。…しかしながら、日本はいまだに「中心都市」とはなりえていない。それには少なくとも三つの理由が考えられる。
第一に、並外れた技術的ダイナミズムをもつにもかかわらず、日本は、既存の産業・不動産から生じる超過利得、そして官僚周辺の利益を過剰に保護してきた。また、将来性のある産業、企業の収益・利益・機動力・イノベーション、人間工学に関する産業を犠牲にしてきた。特に情報工学の分野では、日本はカリフォルニアのシリコンバレーにリーダーシップの座を譲ってしまった。…
第二に、海運業や海上軍事力などの海上での類まれな覇権力があるにもかかわらず、日本は海洋を掌握することができなかった。また日本はアジアにおいて、平和的で信頼感にあふれた、一体感のある友好的な地域を作り出すことができなかった。仮にアジアにこうした地域が存在していたとすれば、それは日本の覇権拡大の基盤となっていたであろう。さらに日本は、港湾や金融市場の開発を怠ってきた。仮に日本に発展した港湾や金融市場が存在していたとすれば、アジアと太平洋地域の中継点として、日本は世界の「中心都市」となることができたであろうし、今後もその可能性は残っているだろう。
最後に、日本は…ナビゲーター、技術者、研究者、企業家、商人、産業人の育成をこれまで怠ってきたと同時に、科学者、金融関係者、企業クリエーターを外国から招聘することもしなかった。アイデア、投資、外国からの人材を幅広く受け入れることなくして、「中心都市」になることはありえない。

ここにはいくつもの教訓がある。整理してみよう。
1-1 既得権益の保護を打破し規制緩和を行うこと
1-2 官僚支配を脱却すること
1-3 将来性のある産業に集中投資すること
2-1 東アジアで一体感のある友好的な地域を作り出すこと
2-2 巨大な港湾(や空港)、金融市場を整備すること
3-1 自由で独創的な個人を育成し、企業家を養成すること
3-2 外国から<クリエーター階級>を呼び込むこと

そうすることによって、最終的に、
「新たな自由・資金・エネルギー・情報源を持ち込んで、従来のサービスを新たな大量生産の製品に置き換え」ることを実現すれば、世界の中心都市になることもできるかもしれない。
これが日本の得意なナノテクノロジーバイオテクノロジーの分野で実現するのか、あるいはゲームやアニメや携帯電話といったサブカル系にその可能性があるのか、混沌としていてよくわからないが、いずれにせよ、実現すべきことはまだまだ山ほどある。

唐突だが、読んでいて「成田空港はあのままでいいのか?」と思った。アジアのハブ空港となるには、規模が小さすぎるし、利用料が高すぎるし、首都からも遠すぎる。いっそ羽田を拡充して、利用料を値下げし、本格的な国際空港にするほうが国益にかなう。関空も同様に考え直した方がいい。
同じように、釜山や上海の港湾との競争に勝つためには、港湾は24時間着荷可能にしなければならない。
観光庁をつくって外国人旅行者を呼び込むことも、決して無駄ではないが、外資に閉鎖的な体質を改め、規制を緩和し、法人税を軽減する方向に向かわないと、多様な才能が東京を舞台に新しい産業を興すというところまでは、なかなか行かないように思う。
もっと根底的な意識改革が必要ということではないだろうか?


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