ロシアが北方領土の引渡しの可能性を模索?

5月11~13日にロシアのプーチン首相の来日を控え、北方領土問題の解決の糸口がつかめるのではないかという期待と、麻生首相がこれを機に人気を回復しようとして、不用意な発言や必要以上の妥協を繰り出すのではないかという心配が高まっている。
元はといえば、2月、サハリンでのメドベージェフ・麻生会談で、「新たな、独創的で型にはまらないアプローチで、我々の世代で解決すべく、具体的な作業を加速しようということで一致した」と麻生首相は発表したが、どうやらメドベージェフは若干のリップサービスはしたかもしれないが、そうは言っていない。麻生首相がそう言ったのである。
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(ロシアでの報道のされ方は、ブログ「国際学どうでしょう」が参考になる。)
その後、観測気球のように谷内正太郎前外務次官が毎日新聞のインタビューの中で、「個人的には(四島返還ではなく)3.5島返還でもいいのではないかと考えている。北方四島を日露両国のつまずきの石にはしたくない」と語ったとされ、本人はその後発言を否定するという動きが起こっている。
この発言はあちこちから、不用意な発言として叩かれたが、私は谷内氏は確信犯であり、ロシアに対して麻生首相のメッセージを伝える役割を忠実に果たしたのだと考えている。

このことに関連して、産経新聞の佐々木正明記者は、モスクワにあるグローバリズム研究センター所長ミハイル・デリャーギン氏が述べた北方領土関連発言を紹介している。
「デリャーギン氏は90年代末に、ロシア副首相のアドバーザーも務めたことがある実力派の若手経済専門家で、政権にも近い立場の人物です。
 デリャーギン氏は、4月1日に開いた記者会見の場でこのように述べました。
 経済危機を切り抜けるための財政資金をどう捻出するかの模索の中で、ロシアは、北方領土とカリーニングラード州を引き渡す決断をすることもありうる。
 デリャーギン氏によれば、現在、ロシアの財政事情は危機に瀕しており、これまでの石油ガス輸出で儲けた資金を食いつぶすかたちで、どうにか持ちこたえている状況とのことです。
 さらに、こう付け加えました。
 「ここ数ヶ月は安定した状況を保証することができるが、夏になれば、社会的混乱が引き起こり、秋を迎える頃には、政府は多くの問題と衝突する恐れがある」
 デリャーギン氏は、ロシア政府の重要な財政事情も明らかにしました。
 現在、プーチン首相率いる政府は、「熱でも冒されたかのように、ただひたすらに運営資金の調達に走り回っている」というのです。
 そして、デリャーギン氏にもたらされた独自の情報を記者に披露しました。
 いま、政府は、北方領土の日本への引き渡しの可能性を模索している。
(ちなみに、カリーニングラードはロシアの飛び地で、ドイツ語名をケーニヒスベルグ、哲学者カントが終生過ごした地である。こちらもドイツに売り渡して資金を回収することを考えているとのこと。)

麻生首相は、相手の懐具合を見透かして、3.5島、または3島返還で、歴史的交渉を決着させ、人気浮揚の切り札にしようとしているのだろう。
ただ、プーチン首相が目先の財政事情にとらわれて、領土問題のような恒久的な損得に関して妥協することは、その性格から言ってかなり考えづらいので、甘い期待を持つのは禁物だと思う。

民間のシンクタンク財団法人日本国際フォーラムは、麻生首相の妥協を懸念して、4月30日に緊急声明を発表した。
緊急アピール「対露領土交渉の基本的立場を崩してはならない」
「日本には歴史的にも、法的にも択捉、国後、歯舞、色丹の「4島返還」を要求する根拠があります。その道理や論理を放棄し、「面積折半」のような利害・得失論に転換して、どのような問題解決の展望があると言うのでしょうか。むしろロシア側はより強気となり、問題解決の展望はいっそう遠ざかるのではないでしょうか。このことを考えると、麻生首相や谷内政府代表の発言は、あまりにも軽率な発言であると言わざるを得ません。」

懸念はわからないでもないが、ここはどちらの情勢判断が正しいかという問題だろう。

財団法人日本国際フォーラムは次のような情勢判断を下している。
現在のロシアは、大国主義・ナショナリズムが高揚し、シロビキ(軍・治安関係者)が政治・外交を壟断し、領土問題解決の「機会の窓」は開かれていません。メドベージェフ大統領が「創造的なアプローチを」と述べましたが、日本側だけが「創造的」対応を行っても、自ら交渉の基礎を崩すだけであり、このような状態をわれわれは看過できません。」

谷内正太郎前外務次官は、プーチンやメドベージェフと秘密裏に交渉するよりも、国内とロシア双方に対してアドバルーンをあげ、その反応を見て動こうと決断し、綿密に結果をシミュレーションしながら話したのではないかと思う。

作家で起訴休職外務事務官の佐藤優氏は次のように言っている。
谷内正太郎政府代表に対する非難は正しい情報に基づいているのだろうか?
「谷内氏が「国賊」であるというような批判が展開されている。袴田茂樹青山学院大学教授、丹波實元駐露大使らが谷内氏を弾劾するための意見広告を新聞に掲載するために募金をしているという。
しかし、ここで一歩立ち止まって、冷静に考えてみる必要がある。まず、谷内氏自身は、「3・5島の返還で、平和条約を締結する」と述べたことはない。日本政府の原則は、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の日本に対する主権を確認して平和条約をつくるというものだ。これは原則であり、譲ることはできない。
他方、外交には相手がある。「まず北方四島返還を約束せよ。それから話をする」というのでは、ロシアは絶対に交渉に乗ってこない。ロシアの乗せるために柔軟な姿勢を示すことは、交渉術として「あり」だ。」
「北方領土に関しても、現段階では2島、次の段階で3島など段階的に問題を解決する可能性を当初から排除するべきではない。…柔軟性を欠いたナショナリズムを煽り立てる発言をはき続けても、北方領土は日本に近づいてこない。」

佐藤氏は2月の段階では、麻生首相の発言に対し、こう書いている。
領土問題「新たなアプローチ」の真意
「麻生総理は、記者のぶらさがり質問に対してこう答えた。
 <「向こうは2島、こっちは4島ではまったく進展しない。今まで通りに言っても解決しない」と訴えた。同時に「日露のいろんなことが領土問題で引っかかるから、問題の解決は必要だ。役人に任せず政治家が決断する以外に方法はない」とまで述べ、早期解決への強い意欲をみせた>(19日付産経新聞)
 きわめて危険な発言だ。言うまでもないことであるが、歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島、国後(くなしり)島、択捉(えとろふ)島はわが国固有の領土である。これら北方四島に対する主権が確認されずに平和条約を締結することは、日本国家の原理原則に反する。国家の原理原則を侵す者を国賊という。政治家や官僚は国賊になってはいけない。麻生総理の発言は、日本が「バナナの叩(たた)き売り」のように、3島(歯舞群島、色丹島、国後島)返還であるとか、4島総面積の半分(上記3島プラス択捉島の25%)の返還で妥協するといった誤ったシグナルをロシアと国際社会に送ることになる。」

2月のコメントと最近のそれでは、かなりニュアンスが変わってきていることがわかる。佐藤氏も、記事には書いていない何かの情報を把握した可能性がある。プーチン首相の発言に、注目しよう。

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